綾奈にバレてはいけない。告白(?)されたこと。今のところはバレてない。
でもゲーム感覚で俺を巻き込んできたのは許さない。しばらく金城無視しとこ。
「伊宮くん」
最近やけに来るな斉藤。
「はよ」
「暑いねー。もうすぐ夏休みだね」
「あ、ああ…」
あと一週間もしないで夏休みだ。
夏休みや冬休みとかの長期休みは苦手だ。家でお母さんのヒステリックに付き合わないといけないし、お父さんの暴力を受けないといけないし。
大体休み明けはボッコボコになって登校する。
「日光どうするの?」
日光、日光林間学校のことだ。つまり修学旅行。二泊三日の。
つまり二回もクラスの女子と風呂に入らなければいけない。
まじ勘弁!!
「行きたくないよ、そりゃ。でもお母さんが多分…」
許してくれないだろう。
「僕も行きたくない…もしかしたらママが逆に行かせるのが心配で行かなくていいことになるかも」
「うらやましー俺は家にいてもどっちにしろ死ぬまで怒鳴られ殴られるさ」
はぁ、とため息を吐く。
「家出、しよっかな」
「いいね。しようよ!」
斉藤が急にノリ気になってきた。ちょっと怖い。
「でも金ないな」
「僕、全然お金使わないからめっちゃ貯金あるよ」
「まじ!俺、小遣いももらってないから。あるはあるけど、少ししか…」
「確かね、10〜20万かな」
「多っ!」
お年玉も小遣いも全部貯めていたらしい。
「じゃ決定!」
「了解!」
林間学校に行くふりして家出しようということになった。
本当は分かってるんだ。
たかが小学生の家出だ。
バイトもろくに出来ないだろうし、家もないんだ。ホテルに居候になる。
簡単に見つかるし、つかまる。下手したら補導されるかも。でもそれはそれで楽しいかもしれない。
「ユウ…」
振り向くと綾奈がいた。
「何?」
「帰り、話があるんだけど」
「いいよ」
北門で約束をした。
なんだろう、話って。怖い。
何かしたかな…?

トイレに寄ってから来たから北門にはすでに綾奈がいた。
しばらくは無言で歩いていた。
こっちから言っていいのか分からなくてソワソワしてる。
他の児童がほとんどいなくなったとき、綾奈は口を開いた。
「最近、おかしいよ」
「は?何いきなり」
「前はもっと、なんていうか…そんなに暴れたりしなかったじゃん」
要するに俺は頭がおかしくなったといいたいんだろう。
「綾奈に関係ないだろ」
「あるよ。友達じゃん」
友達……ははっ。馬鹿らしい。反吐が出る。
「お節介なんだよ。俺が例えば『助けて』って言ったって何もできないだろ」
「何でそんなふうになっちゃったの」
綾奈は涙目になって訴えてきた。
意味がわからない。こっちが聞きたい。
会話ができないのかよ。噛み合ってないじゃねえか。
「私、そうやってユウが変わっていくの、もう見てられない。耐えられない」
「何で?俺がどうしようと綾奈に何も…」
「私のためでしょ?私のせいで、ユウは変わった」
何なんだよ。
解ってんなら訊くなよ。
「…知ってたのかよ」
「なにが」
「俺が!おまえがすきだったって知ってたのかよ!」
「知ってたよ!」
何で逆ギレしてんだよ。
知っててあんな態度、思わせぶりな態度すんなよ。
こっちの気持ちも知らないくせに!
「知っててあいつに告るとか言ったのかよ!」
「そうだよ」
「なんで?」
だんだん怒りがふつふつと体の底から沸騰し始める。
「私はユウのこと、男子に見れない!だってその顔、体、明らかに女の子じゃん!」
そうだったのか。
俺は結局、金城にも綾奈にも、女の子にしか見られてなかったのか。
「女の子にのにえっちな本読んだり、動画観たりして、正直、気持ち悪いよ?!」
もう綾奈の勢いは止まらなかった。
へえ。そう、気持ち悪いって思ってたんだな。
女の子のことを好きになっちゃいけないんですか。
お姉ちゃんの保健の教科書を盗み見することはいけないことでしょうか?
エロビデオ観たらだめなんでしょうか。
エロい動画や漫画を読んで興奮してしまう俺は変なのでしょうか。
りぼんよりジャンプが好きなのはおかしいんでしょうか。
何でなんですか。
そんなこと、誰が決めたんですか。
「なのに、ユウはどんどん不釣り合いな男の子のフリして、私が好きだったユウじゃなくなった!」
綾奈の俺に対する“好き”はなんでもない、ただの友情としての好きだ。
綾奈はどんどん俺を傷つけていく。もう、止まらない。ぐさぐさと刺さって抜けない。
「ユウ、いい加減目を覚ましなよ!現実を見てよ!ユウは女の子なの!男の子になんかなれないの!」
怒りが爆発した。
気がついたら綾奈の顔を叩いていた。
綾奈は塀にもたれて一瞬フリーズし、そして泣き崩れた。
男の子になりたいのは斉藤だ。
俺は、違う。そんなんじゃねえ。
綾奈は勘違いしてる。
俺は男の子に“なりたい”んじゃなくて男の子“なんだ”よ!
「言っておくけど、俺。おまえのことちっとも好きじゃないから」
冷たく吐き捨てて家に向かって走り出した。
泣いた。泣いた。
号哭した。
声が枯れるくらい泣き叫んだ。
俺の味方はもう誰もいない。
途中、パトロール中の警察官にたまたま会ってしまった。
「君、大丈夫?」
「名前は?」
あれ、たしか警察殴ったら公務執行妨害か何かで逮捕されちゃうんだっけ?
二人殺したら死刑だっけ?
「迷子かな?」
この歳で?
「ちょっと一緒に来てくれる?」
俺さっき公園のフェンス思い切り蹴りまくって曲げちゃったけど、器物損壊で訴えられないよね。
急に怖くなって走り出した。
自慢じゃないけど走るのは馬鹿速い。
あっという間に警察は見えなくなって、家についた。
幸い今日は仕事が長引くとか言ってたな。
家には誰も居なかった。
とりあえず財布の中の金3520円とお母さんの通帳に挟んであった6万円を盗んでリュックに入れた。あとは下着2枚ずつ。絆創膏に包帯。果物ナイフとお父さんのズボンの中の万能ナイフ。カップラーメン三個。洋服3セット。あとは四色ボールペン二本とメモ帳。
『遺書 突然いなくなってごめんなさい。俺は生害だと思ったので消えます。その方が母さんたちも嬉しいでしょ?正直、俺が悪かったところもあると思う。でも俺はお前らが嫌い。』
それだけ数学のノートに書いて部屋の机の上に置いた。
なんだか馬鹿馬鹿しいなと思った。
家を出て鍵を閉める。
鍵をどうしようかと思ったけど持っておくことにした。
ドンドンドン
斉藤の家に走って着いてドアを叩きまくる。
「伊宮くん?」
閉ざされたドアの向こうから不安げな声が聞こえてくる。
「そう。伊宮ユウ」
するとガチャリとドアが開いて、そこにはもちろん斉藤がいた。
「あの計画、急遽今日に変更した。一緒に、逃げよう!」
「えっ、あ、うん!」
フットワーク軽いな。
すると十分ほどで出てきた。
幸か不幸か親は居なかったらしい。
「親に何て言ったの?」
斉藤が心配そうに尋ねてきた。
「てきとーに遺書書いといた」
「それいいね。僕もそうしよ」
まずいな。こいつちょっと調子乗り始めてる。
するとネームペンでさささっと書いて俺に見せてきた。
『これは遺書です。人生に疲れました。僕はかけおちします。探さないで下さい。これは警告です。見つかったらその場で心中します。瑠奈』
「つまんね」
さすが1分で書いた遺書だなと思った。
「ふざけてる」
『遺書』は書けるのに『駆け落ち』を漢字で書けないところはやっぱり、そうなんだなと思う。
「ねぇどうする?ほんとに見つかったら心中する?」
「いいんじゃない」
てきとうに話しながら駅に歩いて行った。近くにあった美容院に斉藤に無理矢理頼んで向かう。
「髪染めたい」
「何色にするの?」
「水色〜かな」
「似合いそ〜」
「斉藤は?」
「えっ僕も?」
「いいじゃん。イキり」
「えーじゃあ、ピンクとか?」
「やっぱ、斉藤はいまのままでもかっけーや」
そんなこと言って美容院に着く。髪染めてくださいと言うと美容師は驚いていた。
ついでに伸びてきていたから少し切ってもらった。あっと言う間に仕上がって俺は青と水色と黒っぽい色に変わった。
斉藤も女の子ぐらいに伸び始めていたから切ってもらったらしい。首全体が丸出しになっていた。斉藤の髪はさらさらで何か急に色気を感じた。
「イケメンじゃん」
「そっちこそ」
俺は前髪をセンター分けにし、毛先を整えてもらった。元々癖毛というか、若干天パだったからますます良い感じに仕上がっていた。前からセンターにしとけばよかったかなと後悔。
そんなことして電車で3、4駅飛ばし気まぐれで降りた。
そこからまたバスで別駅まで移動。
案外早く着いた。
駅の近辺にはホテルが建ち並んでいた。豪華に聳え立つビジネスホテルに入るが、予想より高い値段。
諦めてネットカフェの個室に泊まることにした。
いざ入ってみると案外安く、しかも部屋は広かった。節約のために二人一部屋にしてしまったけど、心臓が保たなそうで怖い。
ほとんどのネットカフェは中・高校生は宿泊できないことになっているが、商売のためかOKのところも稀にあるらしい。ここが偶然そうだったみたい。ラッキーだ。
一旦外に出て俺は近くのコンビニでカップ焼きそばや朝食用のパンを、斉藤はお菓子を買い漁った。
ネットカフェに帰って来ると斉藤が言い出した。
「ピアス開けたいな」
今度は俺がつきあう番だった。
買ってきたアイスで耳たぶを冷やし、斉藤が持ってきた安全ピンの太いやつで穴を開けた。
「痛っ」
斉藤は顔を歪めて口をしかめた。結構痛いらしい。
「…いっ」
痛かった。普通に。
結局斉藤は二つ開けた。俺は三つ開けたけどそのうちの二つは無理矢理刺された。
まだ5時だったし、デパートのアクセサリー屋さんに行った。
俺は男性が付けるようなシルバーのリングピアスを一つ、シンプルにただの黒いピアスを二つ買った。斉藤は俺とお揃いの黒いピアスを一つ、色違いで赤のピアスを一つ買って帰った。
「明日、どうする?」
各々買ってきたお菓子を夕飯代わりに食いながらよそよそしい世間話をしていた。が、そろそろ話題が切れてきたから本題に戻す。
「取り敢えず県外行きたくない?」
「だよな。歩く?」
「うーん…うん、そうだね。疲れたらバスとか使うか」
斉藤は学年トップファイブに入るほど足は速い。持久力はそこそこ。まあどちらにしろ俺よりはない。
だから歩いて移動し、見つかったらダッシュの方が安全性は高い。効率は悪いけど、まだまだ逃げ切れる気がするし、旅は永い。
もし下手してバスでたまたま誰かに見つかったとか通報とかされたらバス内じゃ逃げられないし、駅も人が多すぎるから危険だ。
ここは安全を重視。
「道とか調べられる?」
「うん。いいよ」
俺は方向音痴だから道は斉藤に全て任せている。
斉藤は父親から盗んできた家族共用のパソコンを開き、素早いタイピングを始める。
「ねー」
しばらくすると斉藤が話しかけてきた。
「いざ逃げる、となったらどうする?」
「何が?」
「バラバラになった方が見つかりにくいでしょ。」
だからそうなった時ようにメール交換を、てことだった。
「ヤダ。逃げんなら二人で逃げよ。約束しただろ?」
「そうだよね」
斉藤はふふ、と安心したように笑った。
俺は斉藤のおかげで知ったことがある。
斉藤はよく笑う。
もちろん楽しいときも、逆に辛いときも。
斉藤は、「ふふっ」と可愛らしく笑うときもあれば、へらへらと薬物乱用者みたいに笑うときもある。
笑う、って一つだと思ってた。
でも実はその「笑う」という動作には色々な感情があるって知ったんだ。

「俺、優しいからさー。ジャン!」
そう言ってポケットから果物ナイフと万能ナイフを取り出す。
「さっすが!気がきくね」
くす、と笑い俺からナイフを奪うように取った。
「ぶしゃっと首いっちゃう?」
斉藤はカバーがかかったままの果物ナイフを自分の首に持っていき、スライドした。
「まあ、派手でいいんだけどさ」
斉藤はシュッシュッとナイフを振り回す。呆れながら取り返す。
「死体処理、面倒くね?死ぬ時まで他人に迷惑かけたくねーよ」
自害の死骸ならぬ、死害だ、と思った。
「こーよ」
ナイフを胸の真ん中に持っていき、押し付ける。
心臓を一突き。
でもこれは肋骨やらがあるから死ねる確率は低い。しかも相当痛い。
それにナイフが短すぎて心臓に届かない気がする。
「どっちにしろ、血出るじゃん」
斉藤が渋い顔で言う。
「本当は飛び降りが一番致死率高いんだけどな」
「それこそ一番の迷惑じゃん」
知ってるわそんぐらい。
高致死率で血が出ないのがあんまないからなあ。
「じゃー首吊りは?」
想像してみる。
部屋に二人の死体がぷらんぷらんしてる。
尿や糞が床に汚水溜りを作っている。
うーん。
「何か、惨めじゃん?」
「だね。あと、結構苦しむらしいし」
斉藤も基本的な自殺知識はあるらしい。
お互いに、最も良い自殺方法を考えて無言になる。
「じゃ、クスリに1票!」
すぐに斉藤が言い出した。
今日はなんか妙にハイテンションだな。
「あーOD《オーバードース》?」
「そ。僕、いっぱい持ってるよ。精神安定剤でしょ、抗うつ剤でしょ、あと睡眠薬も」
斉藤は白い錠剤がたっぷり入った袋を見せてきた。
「いやぁー最近良く寝付けなくて、寝不足なんすよぉ〜って精神科の人に言ったら簡単にもらえたわ」
もしそれを言ったのが斉藤じゃなくて俺だったら先生はどうしただろうか。
「でもさ、効くまでに時間かかるでしょ」
袋を押しのけて言った。
斉藤はへらっと笑いながら薬をぷちぷちと取り出して、飲み込んだ。
それ飲んでるけど絶対時間じゃないし、しかも量馬鹿多いし。致死量ではないとは言え、その時点でODしてるじゃん。
何もツッコまずに続ける。
「んじゃ入水とか?」
「水辺、近くにないよね」
「…切腹?」
「え、武士じゃん」
自分が腹を切るところを想像する。
ぶちぶち、と皮と肉が一気に裂け、ぶしゃりと内臓が飛び出る。ずるずると大腸などが溢れ出る。
うーん、きもちわるい。
こんなグロい会話中にぐちょぐちょになったコンビニの温泉卵を食べている斉藤はすごいと思うよ。ある意味。
入水とか苦しいし、切腹とか一番痛いし介錯必要だし、やるつもりはない。
しばらくお互いにまたネットと会話をして、お菓子を食べての繰り返しをした。
「そういやさ、ここ風呂あんの?」
「あ、無いね」
野宿はいいけど何日も風呂無しはきつい。
流石に不潔だ。
大体は清潔でいないと周りに怪しく思われるかもしれない。
それに汚い。
旅の前なんだし、次いつマトモな風呂に入れるか分からない。
結局、風呂だけは近くの別のネットカフェで有料シャワーを浴びた。
夜。
8時ちょっと過ぎ。
まだ小学生が起きていてもおかしくはない時間だ。
俺は家から持ってきたバスローブを適当に被って寝っ転がっていた。
斉藤は風呂上がりとなると益々色気が出まくっている。
俺の気も知らずに斉藤は俺の目の前で裸になったりしている。
「あついー」
髪から垂れる雫、ほかほかと湯気の立つ肌。バスローブがないらしく、濡れていない大きなバスタオルを羽織っている。
ちらりと斉藤は俺の方を見ると、髪を触ってきた。
「お風呂上がりだと、ストレートになるんだね」
言っておくけど、普段そこまでチリチリじゃない。程よい天パだ。
てか近い。近いよ斉藤。
「前閉めなよ。個室だからって、もう」
斉藤は俺が前を全開にしていたことが気に入らないらしく、暑さでか顔を赤らめながら前を隠した。
斉藤はガリガリでチビだし胸も色気もくそもない身体だ。だけどなんだろう、これ。すごくどきどきしてる。
でも、羨ましいよ。
俺は身体は女としかいいようがない感じに出来上がってるから。
「斉藤」
「ひゃ」
あまりに可愛過ぎたから、つい押し倒してしまった。
軽いし弱いしガリガリだし、男に簡単にやられちまいそう。
それに可愛い声出すじゃん。
「お前、俺のこと何だと思ってる?」
「ひ…え?」
「男の前で軽々とそんな格好してっと、こうなんだよ」
そう言って、斉藤の唇に教えてやった。
初めてだった。
多分、お互いに。
斉藤は真っ赤になって俺をポカポカ殴ってきた。
そのへんで電気を消し、もう寝ることにした。
そんなこと言っても、お互いほぼ裸だし、家族以外の異性と添い寝なんて初めてだし、なかなか寝付けない。
「ねぇ」
「何?」
「僕のこと、瑠奈って言って」
「お、おお。いいけど」
瑠奈は俺の手を包んだ。
雰囲気的に、そんな感じがした。
「僕は伊宮くんのこと、なんて言えばいい?」
「ユウでいいよ」
瑠奈って、こんなやつだったっけ。
「…これから、どうする?」
「今日はもういいよ。疲れた」
「無計画に行動すると、捕まるかもよ?」
「うるせえ。明日でいいじゃん」
「ユウ、ユウはいつも思いつきで行動するから失敗するんだよ」 
なんだよ。知ってるよそんなこと。でも俺は大雑把で計画が苦手なタイプなんだよ。
急にどうしたんだ瑠奈。いつもはもっと大人しくて、弱くて、暗くて、消極的で、流されやすかったような。
「ユウはどうしたいの?」
でも今は違う。
ちょっと危ないことばかりして、うるさくて、とっつきやすくて、色気抜群で、積極的だ。
これが今までずっと隠されてきた瑠奈なのか。瑠奈は、自分の弱さが分かってる。そしてその弱さを受け入れて、されけ出してる。
それで、今まで生きてきたんだ。
それだからこそ、瑠奈は強いんだ。
俺は強がってた。
実は弱いのに強がってる女の子がタイプ、なんて言ってたこともあったけど、本当に弱いのは俺だった。
いつも逃げることしか考えていない。
結果、家という暴力・束縛と、学校という権力関係からは逃げることができた。
でも、あるものからは逃げることができないだろうと気づいた。
“世の中”と“人間”という醜いものから。
なら、
「世界をぶっ壊す。この生きづらい世界を変えたい」
すると瑠奈は笑った。
今まで見たこともない、希望に満ち溢れた笑顔だった。例えるなら、太陽。
独りじゃ光ることもできない、暗くて小さな星《俺》を照らし出してくれる、太陽《瑠奈》。太陽に照らされて月が光るように。暗黒の星は輝く。
「じゃあまず、どうする?」
「うーん、」
世界を変えるには、俺たちはまだ未熟過ぎる。知識も体力もまだまだ小学生だ。
「逃げても、いいんだよ。でもね、僕はこの旅を逃げる旅にしたくないんだ。変える旅にしたいの。ちゃんと自分と世界と向き合って、変えたいんだ」
変える旅…なんかすごいこと言ってんな。
「ずっと逃げるのはだめだけどね。でも今、僕たちは逃げるべきだよ。」
逃げる=弱いは間違ってる。
それを俺に教えてくれた。
「ありがとう瑠奈」
そう言って、照れながら瑠奈を抱き寄せた。