ーーどうしよう。このままだと、心臓が止まっちゃいそうなんだけど。

 なんてことを案じている私は、只今絶賛、桜小路さんの腕の中で生命の危機に瀕している真っ最中である。

といっても、誰にも分かってはもらえないだろうから、説明すると……。

 桜小路さんと仲直りするため、服とコンポートのお礼を告げた際。

 何故かワンピース姿の私を捉えた刹那、桜小路さんは酷く驚いたように目を見張ったまま、あたかも石のように固まってしまった。

ーー絶句しちゃうほど、似合ってないってことなのかな。

 桜小路さんのリアクションに、なんだかいたたまれない気持ちになってくる。

 けれどそれはほんの一瞬のことだった。

 すぐにハッと我に返った桜小路さんから、

『……あぁ、いや。俺の方こそ、怒ったりして悪かった』

服に関しての感想は一切なかったものの、謝ってもらえて、なんとか仲直りできて一件落着。

 その後は、いつもの調子に戻った桜小路さんから、前日同様、『食べさせろ』とでも言われるかと思いきや、全く逆のことを言い渡されたのだった。

 つまり、『食べさせてやるからここに座れ』そう言われたのである。

 『ここ』とは、勿論桜小路さんの膝の上にと言うことだ。

 桜小路さんからすると、これもどうやらお詫びのつもりらしい。

 私にしてみれば、ただの嫌がらせにしか思えないのだが、それを言ってしまえば、また機嫌を損ねるだけだろう。

 喉元まで出かかっていた抗議の言葉はすぐに飲みこんで、早々に諦めの境地に到達していた。

 着慣れないワンピースということで、昨日よりも緊張感も羞恥も上回っていた私は、ええいっと思い切るようにして桜小路さんの足に跨がったのだった。

 裾が捲れずに済んだことに安堵したのも束の間。

 昨日と同様に、慣れた手つきで腰を抱き寄せた桜小路さんから唐突に、

『もしかして泣いたのか?』

問いかけられた言葉に、今度は私が驚く番だった。

 まさかそんなことを訊かれるなんて思わなかったものだから、すぐに返事もできずにいたのだが。

 それをどうやら勘違いしてしまったらしい桜小路さんから、申し訳なさそうな表情を向けられて。

『俺が怒ったせいで泣かせてしまったのなら悪かった』

 いつになくシュンとした頼りない声音が聞こえてきた。

 どういうわけか、その声に反応するように、私の胸はキュンと切ない音を奏でるのだった。

 ちょうどそのタイミングで、桜小路さんに指でそうっと涙の跡が残っているのだろう頬を優しくなぞるようにして撫でられてしまい、その心地よさにうっとりしてしまうのだった。

 そのため、そこにすーと鼻先まで近づいてきた桜小路さんの超どアップのイケメンフェイスに驚くよりも釘付けになっていた。

 そうしてそのまま自然な流れで、桜小路さんに頬にそうっと優しく口づけられてしまっていたのだった。

 そのことに気づいた途端に、桜小路さんに口づけられているところから徐々に熱くなってきて、そこから全身に熱が及んで、火照った身体が熱くてどうしようもない。

 きっと顔もどこもかしこも真っ赤に違いない。

 恥ずかしくてどうしようもないのに逃げ場がないから、身動ぎもせずにじっと耐え忍ぶしかないのだけれど。

 そこに、なにやら困ったような顔をした桜小路さんから、自嘲気味に零した声が聞こえてきて。

『嫌なら嫌とハッキリ言わないと、どうなっても知らないぞ?』

 私はそこでようやくハッとしあることに気づかされることになるのだった。