鮫島さんの運転するいつもの黒塗りの高級車に揺られること数十分。
前方にパティスリー藤倉の店舗が姿を現してすぐ、予め到着時間を知らせてあったため、伯母夫婦と恭平兄ちゃんとが既に駐車場の入り口で待ってくれている姿が視界に飛び込んできた途端。
前回来てからまだ一週間ほどしか経っていないというのに、もう何年も会っていなかったかのように、ひどく懐かしさを覚えてしまった私の目頭がじんと熱くなってきて、気づけば私は涙ぐんでしまっていた。
きっと、この一週間という短期間の間に色々なことがあったことと、なんの心の準備もないままに創さんのことを追いかけてロサンゼルスにまで行ったことで、母が亡くなってからは母親代わりだった伯母にも、父親のことを知らずに育った私にとっては父親代わりだった伯父にも、兄のような存在だった恭平兄ちゃんにも、きちんとお別れもないままだったせいだろうと思う。
最低でも一年は会えないだろうと思っていたのだから、余計だ。
その感情のなかには、寂しいという気持ちは含まれていたかもしれないが、後ろ向きな考えなどは一切なかった。
けれど創さんには、そうは見えていなかったらしい。
私が涙ぐんでいることに気づいたらしい、後部座席で隣りあっている創さんが自身の膝の上でしっかりと繋ぎあっている私の手をもう片方でそうっと包み込んできて。
気づいた私が創さんのほうに目を向けると、とても不安げな表情のイケメンフェイスが待っていて、胸がキュッと締め付けられる心地がした。
そこへ、創さんの優しい声音が囁きかけてくる。
「……菜々子、家族と離れるのが辛いなら、こっちに残っていてもいいんだぞ? 月に一度くらいなら帰ってこられると思うし」
思いもしなかった創さんの言葉に面食らってしまったけれど、いつもこうやって私にとって何がいいかを考えてくれることはとっても嬉しい。
けれども、今回のことがあったことで、創さんのことをどんなに好きであるかを想い知ったし。
また、創さんが私のことをどんなに大事に想ってくれているかも、知ることができた。
結果、創さんへの想いはこの一週間の間にもみるみる膨らんで、今では創さんと一瞬たりとも離れるなんてこと、考えられないし。考えたくもないーー。
そんな想いでいた私は、いつしか零れてしまった涙もそのままに、シートベルトを素早く解除し、創さんの胸に勢い任せに飛び込むようにして抱きついてしまっていた。
このときほど、小柄な体型でよかったと思ったことはないかもしれない。
「ちょっと感激して泣いちゃっただけだから、そんなこと言わないでください。私は、もう一秒だって創さんと離れるなんてこと考えられないんですから。創さんが嫌だって言っても絶対に離れませんから」
すると、創さんははじめこそ吃驚してしまっていたのかフリーズしたままだったけれど、すぐに、私のことを抱き竦めてくれて。
「俺も。俺も一緒だ。もう菜々子と離れることなんてできないし、そんなこと考えたくもない。断言する。嫌だなんて思うことなど絶対にない。一生一緒だ」
車内には、鮫島さんも菱沼さんも、(見えないだけできっと愛梨さんだって)いると思うけれど、そんなことなど一切気にもとめずに、なんとも情熱的に甘い言葉を紡いでくれていた。
さすがに、桜小路家の面々の前では控えてくれてはいたけれど、そんな溺愛モードの創さんの言動に、この一週間というもの、すっかりと感化されてしまっているらしい私も、夢見心地で創さんの背中に両腕をめいっぱい伸ばして抱きついてしまっていて。
しばらくの間、バカップルと化してしまっていた。
数時間前、ロサンゼルスから帰ってきたばかりの私たちの言動に驚きを隠さないどころか、若干引き気味だった菱沼さんも、今じゃすっかり慣れてしまったようで、何も言わずに、終始ニコニコ笑顔を絶やさない鮫島さんの隣で空気と化してくれていたようだ。
けれども、空気を読むことのできない愛梨さんは、そんなことなど気にしないとばかりに、というか、おそらく何にも考えていないのだろう。
【キャー! ふたりともすっかりバカップルになっちゃってぇ。若いっていいわねぇ】
愛梨さんはいつものようにはしゃぎまくっていたようだったけれど、創さんに感化されてしまっている私は、そんなことももうどうでもよくなってしまうほど、ふたりの世界にどっぷりと浸ってしまっていた。
