と、そこまで考えていたところで、ふと、さっきまで脳天気な明るい声を炸裂していた愛梨さんがえらく静かになってしまっていることに気づいて。
ーーあっ、いっけない。
愛梨さんにとっては嬉しいことばかりじゃないはずなのに、私ってばうっかりしてた。
長年のわだかまりが解けたことは非常に喜ばしいことではあるけれど、それは同時に、愛梨さんにとって大事な存在であるであろう、ご当主と創さんが自分ではなく、後妻の菖蒲さんと仲睦まじい家族になるということであり。
それはとてつもなく辛いことであるに違いない。
愛梨さんの姿は実態がないため確かめようがないが、もしかすると、私が今こうして考えている間にも、泣いているかもしれない。
そんな愛梨さんの前で手放しで喜んでいいはずがない。
うっかり者の上に加えて、いくら余裕がない状態だったとはいえ、なんともデリカシーの欠片もないことをしてしまった。
ーーど、どうしよう。
愛梨さん、黙り込んじゃってるけど。大丈夫かなぁ。
いよいよ心配になってきて、さっきとはまた違った意味で、オロオロし始めた私の元に、どういうわけか愛梨さんの思いの外明るい声音が届いた。
【菜々子ちゃんは本当に素直で優しいわねぇ。でも、大丈夫よ。そんなに気に病むことはないわぁ】
(……で、でも)
なんとか返した言葉も、とても頼りないものになってしまった。
愛梨さんのことを思えば、どうにも切なくて、泣きたくなってしまったせいだ。
それでも、ここで私が泣いてしまうのは違う気がして、なんとか堪えようとしても、うまくいかない。
ぐっと奥歯をか噛みしめて耐えしのぐことしかできないでいる。
すると愛梨さんは、やっぱり明るい声音で実にあっけらかんと、事もなげに言うのだ。
【まぁ、確かに。死んじゃってるとはいえ、私の代わりに菖蒲さんという人が創一郎さんの隣で幸せそうにしているのを見るのはいい気がしないわねぇ】
けれど、口調とは裏腹に思っていた通りの言葉が返ってきて。
ーーやっぱり、そうだよね。辛いよねぇ。私ってばデリカシーがないにもほどがある。
猛烈に自分のやらかしを悔いていたところに、再び愛梨さんの明るい声音が割り込んでくるのだった。
【でも、創一郎さんと創が幸せそうにしてくれていることのほうが、私にとっては重要なの。それにね、菖蒲さんは今でも私の位牌に毎朝欠かさず手を合わせてくれているの。私だったらそんなこと絶対できないわ。だからそれで充分……なんて言ったら嘘になるけど。それも生きている間だけのことよ】
