ーーもう、愛梨さんってば、人のことだと思って暢気なことを。
愛梨さんのお陰で、少し羞恥も薄れて、真っ赤になった全身から徐々に熱が引いていく心地がしてホッとしていたのだが……。
そこに、この場の和やかな雰囲気を一蹴するかのように、隣の創さんから向かいに座る創太さんへ向けて冷ややかな低音ボイスが放たれた。
「おい、創太。お前はひと言余計だ」
その声を聞いて思い出されるのは、ここ桜小路家に初めてご挨拶に訪れたときの廊下での一件のことで。
隣の創さんの顔を窺い見れば、今日も頗る絶好調の眩いくらいのイケメンフェイスを苦々しく歪ませている。
こういう場だからとなんとか怒りを抑えようとしてはいるのだろうが、あの時のことを今も根に持っているのか、眉間には、深い皺をいくつも刻んじゃってるし。
折角、諸々の誤解も解けていい感じだったのに、私のせいで台無しだ。
ーーど、どうしよう。
羞恥から解放されつつあったのに、今度は打って変わって、異母兄弟の諍いの種に自分がなってしまったことに絶賛オロオロ状態でふたりのことを見比べるようにして視線をキョロキョロさせることしかできないでいる。
とそこに、お決まりのように、愛梨さんの心底愉しそうな明るい声音が意識に飛び込んできて。
【あらあら、創ったら創太くんにまで焼き餅焼くなんて。やっぱり血は争えないものねぇ。若い頃の創一郎さんにそっくりだわぁ】
その内容に、力が抜けてガックリと項垂れそうになった私がなんとか項垂れずに体勢を保ちつつも。
ーーもう、こんな時にまでノロケ話ですか? ホントに暢気なんだからぁ。
胸の内でひっそりこっそりと悪態をついていると、今度は終始にこやかな表情でふたりの息子を見守っていたご当主より、愛梨さんに負けず劣らずの、実にあっけらかんとした明るい声音がだだっ広い大広間に響き渡った。
「おいおい、創。みっともないからやめないか。いくら菜々子ちゃんが初心で可愛いからって、あんまり嫉妬してると嫌われるぞ? これからはもっと夫としてドシッと構えるくらいでないと。ねぇ? 菜々子ちゃん」
そうしてようやくこの場が収まると私がホッと仕掛けたのも束の間。
唐突に名前を呼ばれて、「……へ?」頭が追いつかない私が頓狂な声を放つと同時に、再び愛梨さんの明るい声音が意識に割り込んできて。
【ふふっ、創一郎さんったら、私と道隆さんがちょっと世間話してただけでプリプリ怒ってたのに。昔のことはすっかり棚に上げちゃって。ホント親子してそっくりなんだからぁ。でもそういうところが可愛いのよねぇ。ねぇ? 菜々子ちゃん】
さすがは元夫婦。
僅かな時間差こそあれど、実に息ぴったりなふたりの問いかけに、どっちに答えればいいかの咄嗟な判断ができずに口を噤んだままで。
ーーええ? ちょっとどうしろっていうの?
胸の内で頭を抱えてしまっていた。
普通に考えれば、生きているご当主の方にだけなんらかの反応を返せばいいのだが、あまりにも唐突だったために、冷静な判断などできなかったのだからしょうがない。
