でも、創さんの気持ちだって分かる。

 私だって、できることなら、創さんとこうやってずっとずっとくっついていたいし。

 つい数十時間前のように、大好きな創さんに何もかもを委ねてしまいたいって思ってもいる。

 いくらそうしたいって思っていても、愛梨さんのあの肖像画が脳裏にちらついて理性にストップをかけてくるのだ。

 ……といっても、ずっとこんなことをやってたら創さんだって不審に思うだろうし、嫌われてしまうかもしれない。

 ーーそんなの嫌だ。

 やっと誤解も解けて、今こうして創さんと一緒に居られるっていうのに。

 ーーもうこうなったらヤケクソだ。

 愛梨さんの姿だって見えないんだし、居ないものと思い込んじゃえばいいだけのことだ。簡単、簡単。

 やっと覚悟を決めた私が無意識にギュッと閉ざしてしまっていた瞼を開け放った刹那。

 一体どうしちゃったのか、私の身体からすっと退いてしまった創さんが、イケメンフェイスに溢れんばかりの大輪の笑顔を綻ばせてから。

「菜々子は本当に初心で可愛いなぁ」

 堪らないって言うような声で、そんなことを独り言ちるように呟いたかと思うと、続け様に、今度は悪戯っ子のような声音で、

「でも、安心しろ。空港で、ヤリ逃げだとか言われたお返しをしてただけだ」

これまでのあれこれの種明かしをしてくれた。

 どうやらさっきまでの創さんの言動は、空港で恥ずかしい発言をしてしまった私への報復だったらしい。

 ーーええ!? せっかく覚悟を決めたところだったのにぃ。

 なんだか拍子抜けだ。

 いや、拍子抜けを通り越して、創さんの意外すぎた言葉に私はがっかりしてしまっている。

 あんなにオロオロしてたクセに、身勝手なものだと自分でも思う。

 そんな身勝手なことを思ってしまっている私のことをそうっと抱き起こした創さんは、ソファに座った自分の脚の間に私を挟むようにして固定すると、あっという間に私の身体を背後から抱き包んでしまった。