伯母夫婦に祝福モード一色で出迎えてもらって、創さんとの結婚に向けてのあれこれを話していたのに、思わぬストップがかかり雰囲気は一変。

 派手な音を立てて転倒した椅子もそのままに、なんとも重苦しい雰囲気が漂っている。

 ふわふわと夢見心地だった私の心もたちまち急降下。ズシンと一気に地中深くに沈み込んでしまったかのようだ。

 そこにいつも底抜けに明るい佐和子伯母さんの明るい笑い声と、朗らかな声音が響き渡った。

「もう、やだわ、恭平ったら。いくら妹同然の菜々子がお嫁に行くのが寂しいからって。そんなに目くじら立てないの。いつでも会えるんだから。ね?」

 それに倣うようにして、恭一伯父さんもできうる限りの明るい声音を放ち。

「そうだぞ、恭平。お前もいい大人なんだ。菜々子に先越されたからって、そんなに拗ねるなよ」 
 最後には豪快に笑い飛ばしつつ、隣で仁王立ち状態の恭平兄ちゃんの背中をバチンッと手で豪快に叩いて宥めることで、なんとかこの場の空気を和ませようとしてくれている。

 ところが、恭平兄ちゃんは、怒った表情を緩めることなく。

「なんだよ、親父まで。最初はあんなに反対してたクセに。コロッと騙されやがって。菜々子もいくら色恋に疎いからって騙されてんじゃねーよッ!」

 さっきと同様の物凄い剣幕で捲し立ててきて、その瞬間、私の頬に生ぬるいものが伝う感触がして、咄嗟に指を宛がってみると、それは涙で、自分が泣いていることにそこで初めて気がついた。

 すると、それを目の当たりにした恭平兄ちゃんがハッとしたような表情を一瞬だけ見せたけれど。

「と、とにかく、俺は反対だからなッ!」
「おいッ! 恭平」

 思い切るようにして声を放つと、恭一伯父さんの声も無視して、言い逃げるようにいてリビングから出て行ってしまったのだった。