「五十嵐のやつ、虎と毎週なにやってんだろな」
 ついさっき、コンビニで昼飯用のパンを物色していたおれに、憐れむような視線を投げて改札にスキップして行った五十嵐の、背中のリュックでぶらぶら揺れていたタヌキは見たことがある。虎とおそろいだ。
 食えないものに貴重な小遣いをつぎこむ不思議シスターズ。
 小遣いを生きるための食料確保に使うおれより、おもちゃにつぎこむ虎のほうが将来的に期待される逸材だなんて。
 世の中、不条理だ。
 幸いおれは、ナイーブな木村とちがって、できの良い弟と比べられたところで痛くもかゆくもない鉄面皮だけども。

「あーくそ。やってらんねぇ」
 軟禁へのせめてもの抵抗に、飯代に小遣いをはたいてまで束の間の自由を買う土曜日が、あとどれだけ続くのか――。
 残暑厳しい9月の第2土曜日。
 午後1時の公園が寒々しいのはもう、体感温度というより心情でだ。
 なにしろ目は、すばらしく暑苦しい男の挙動を追いかけている。
「なぁ。そっち西だっけ、東だっけ」
 男のはるか彼方に見える空には積乱雲。
 傍目には青と白のコントラストが楽しいものも、下に住んでりゃ迷惑な大雨の素。
「こっちも雨、降るのかね」