部屋に駆け込めばいい。
ここは追い返すべきなのだと思う。
(何を期待してるの)
そうしない理由に考えを巡らせば、ときめくどころか悲しくなった。
「……入れてよ、佐々。ほんの一瞬でいいから」
甘く優しげな声が耳をくすぐる。
「……散らかってるので」
ふと漏らした息にも、びくついてしまう。
「そういう佐々も、知りたいって言ったら? 」
大澤先輩を部屋に入れるのか。
他の男でも、戯れ言ひとつで入れてしまうのか。
「……一瞬、ですよ。……人、待ってるので」
先輩の顔が歪む。
傷つくのは彼か私か、それとも――彼か。
「なんだ。言うほどないな」
部屋のことか、それとも中に入れたことか。
面白がる先輩を私は無視した。
「返し、ます」
日中閉めきっていた室内は、むしろ蒸しているくらいだし……何より借りる訳にはいかない。
「…………」
今度は先輩が無言になる。
受け取った上着を何故か床に放り――。
「……っ、なにを」
――私を抱きしめてきた。



