夏空、蝶々結び。



「何で、送ってもらわないの」


急いで閉めたドアの先に、彼は立っていた。


「ってかさ、何ですぐOKしないの? びっくりしすぎて、声が出なかった? かなえちゃん、あんまり経験なさそうだもんな」


普段と変わらない悪口。
けれど、その声は囁くよりも細く――とても重く沈んでいた。


「今からでも戻って、付き合っちゃえば。一時の気の迷いかもしれないし、今のうちに捕まえとけよ」


息を吸い込み、思いきって正面を睨んでも、ゴンと目が合うことはなかった。


「明日、断るよ」


声が震えるのは、扉の向こう側を意識しているからじゃない。


「……は? なに、馬鹿なこと言って……」


目の前で、ゴンが憎らしげにどこかを見ているからだ。


「あんたのことが好き。……だから、断るの」


(もう誤魔化せないよ)


私も、ゴンも。
――目前に迫った、お別れの時も。


「……好き? 俺を……? 」


冷えた声が、静かな廊下に響く。


「俺は死人なんだよ。いつもいつも、あんたに付いて回ってるけど、恋人どころかペットでもない。……勘違いするなよ」


響いたのは、私の頭の中だけだと。
そんなことはあり得ないと――ゴン自身に否定されている。


「幽霊とはいえ、男のカタチをした俺とずっと一緒にいて……そんな気分になっただけだろ」

「違う!! 」


確かに、いつも一緒だった。
最初は苦痛で、寝て起きたら覚めるたちの悪い夢ならいいのに――そう思ったこともあるけれど。