「先……輩……? 」
『好きだ』も『可愛い』も、元々の先輩の声音に甘さを加えているはずだった。
「佐々のこと、ちゃんと見てるのは俺だけだなんて……おかしな余裕があったんだな。そんなの何の根拠もないのに。現に、すごい焦る羽目になってる」
『ちゃんと知ってるから』
後輩への励ましだと思っていた。
まさか、そんな。
――本当に、見ていてくれたなんて。
「怖がらせたいわけじゃないけど、安心されたいのでもない。……ごめんな」
そう言う先輩は、やっぱり優しいけれど。
「もう、いい先輩じゃないよ。少なくとも、お前が手に入らないうちは」
――私の知らない、男の人だった。
「あ、あの……私……! 」
言わなくちゃ。
あんなに憧れた人だけれど、うやむやにしていいことじゃない。
はっきり、この場で断らないと――。
「いらない」
口を開いて、でも声にならないうちに遮られる。
「……欲しくないよ。それが、俺の求めてる返事じゃないなら。……少なくとも、今だけは」
声色が変わったのを隠すように、先輩が笑う。
そしてふと思いついたように、拾った入館証を私の首にかけた。
「……っ、せんぱ」
緩く指を引っ掛けたままのストラップに繋がれて、動けない。
前につんのめりそうになるのを、かろうじて堪えた。



