ドアの前で入館証をかざす、一歩手前で呼び止められる。
「……っ……ごめん、帰り際に。今、ちょっとだけ時間くれないか」
走って追いかけてくれたのか、大澤先輩の呼吸は乱れている。
もしかしたら、背中でずっと呼ばれていたのかもしれない。
「……はい」
(こうなるまで、自分で認めていなかったなんて)
憧れていたはずの、先輩の声が聞こえなくなるまで。
いつも一緒にいた、ゴンが離れていくまで。
こんなにも単純であるはずのことを、私は故意に見落としていた。
(あまり長くなるようなら、お詫びして明日にしてもらおう)
とにかく、今日は早く帰らなくちゃ。
もう少しも猶予はない――信じたくはないけれど、そんな気がしてならなかった。
家に帰って、しばらくしてもゴンが戻らなければ、今度こそ彼を探しに行くんだ。
「急いでるのに、本当悪い。でも、なんか……今日のうちに言っておかないといけない気がして」
そんなに重要なことだなんて。
『早く帰らないと』なんて、とても言えない雰囲気だ。
何か、とんでもないミスでもしてしまったのだろうか。
そうでなければ、先輩がこんなに切羽詰まったように――……。
「……好きだ」



