一人暮らしの女の部屋に、突如転がり込んできた名無しの幽霊。
それまでの静かで、けれど色彩に欠ける日常をすっかり変えてしまった。
ゴンがいる。
それ以外全て平凡な私の生活は、彼の存在だけでわりと楽しく――キラキラしていた。
なんだ、そっか。
(私は……)
ゴンの視線に誘われると、見慣れたものが目新しく見えて。
嫌なことも腹の立つことも、笑い話になって。
毎日のルーティーンは何も変わらないのに、何もかもが非現実的で――いつの間にか、それ自体が日常だと思っていた。
(でも、そうじゃなくて)
ただ、好きな人が側にいたから。
たった、それだけのことだったんだ。
「私には必要ないですから、先輩にあげます。……叶うといいですね」
カナちゃんはそう言って、持っていたお守りをくれた。
旅先で買ったというお守りは赤い糸の刺繍が施され、すごく可愛い。
自分の為に買ったのだろうに、その気持ちが嬉しかった。
17時半。
時計がきっかりその時間を示すと、私は駆け出した。
仕事の残りを気にせず帰るなんて、初めてかもしれない。
とにかく、待ち遠しくて仕方なかった。
――ゴンに会いたい。
部屋にいてくれるか分からないけれど、それでも一刻も早く帰りたかった。
会って、ちゃんと話したい。
だって、きっともう、彼といられる時間はすごく――……。
「佐々! 」
――短いから。



