夏空、蝶々結び。





・・・



「お疲れ様でした、かなえ先輩」

「うん、お疲れさ……」


――……“かなえ先輩”?


慣れない呼ばれ方に顔を上げると、既に彼らはドアのところで小突き合っていた。


「あいつ、この前までカナちゃんじゃなかったっけ? 調子よすぎだろ」


もしかしたら、高嶺の花は諦めたのだろうか。
仕事が雑なのは相変わらずだが。


(もう手伝わないけど……後で叱られないかな)


こっそり溜息を吐いたところで、彼女に目が留まった。


「矢原さん、どうかした? 」


時計は既に定時を過ぎている。
なのに、カナちゃんは椅子に座ったままだ。
何か、難しいことでもあっただろうか。
それにしても、彼女が誰にも助けを求めず残っているのも珍しい――……。


「先輩はズルいです」


普段の彼女よりも、低く落ち着いて――冷ややかな声だ。
これは本当に彼女の声なのかと驚いたが、ズルをした覚えはない。


「仕事はできるし、上司からも信頼されてるし」

「そんなこと……」


大澤先輩も言っていたけれど、慣れただけで全然上手くはやれてな……。


「先輩は簡単だと思うことでも、私には……! だから……」


(だから……? )


「ふーん。好きで、そのキャラやってたわけじゃないんだ」


あんまりな言い方だが、そう言われて何となく分かってしまった。
今思うと、カナちゃんはいつもどんな仕事だって笑顔でこなしていた。
ただ先に入社しただけの私にお茶を淹れてくれ、課長だか誰だかのおじさん連中をあしらってくれ。

お茶なんて、他部署へのお使いなんて。
別に女の子がやる義務なんかないのに、皆彼女に頼むのだ。

若くて可愛い子の方が、相手も喜ぶ。
ただ、そんな理由で。