夏空、蝶々結び。


「緊張しすぎ」


ワインが注がれるのをガチガチで見守る私を、楽しそうに笑った。


「だって……」


文字どおり、二人きり。
こんにも落ち着かないのは、そこに彼がいないせいもあるのかな。


『そこまで物好きじゃねぇよ』


そう言って、今別のどこかにいる幽霊が。


「佐々って、意外と面白いよな。皆、気づいてないけど」

「新しく配属された人ばかりですから。先輩にはバレバレみたいですけど」


実際以上に、仕事ができるように振る舞ってみたり。
自分のキャパシティを超えて、引き受けてみたり。
――できない自分が、嫌いだったから。


「そうだよ」


ああ、やっぱり。
見るに堪えなくて、誘ってくれたんだ。


「佐々が頑張ってるのは知ってるから。言いたかったのはそれだけ。……今は、な」



・・・


「じゃあな。気をつけて帰れよ。……おやすみ」


変な感じだ。
幽霊が側にいる生活は慣れたのに、こんなにも普通なことが非現実的に思えるなんて。


(本当に、なんてないことなのに)


それこそゴンに言われたような、突然迫られるくらいのことがあったのでもない。
あの後は、本当にとりとめのない話ばかり。
だというのに、私は混乱していた。


(だって……)


タクシーを捕まえてもらったことも。
必要もないのに、ゆっくり先輩の手でドアを閉めてくれるくすぐったさ。
それから、さよならを言わないままの『おやすみ』も。つい最近まであり得なかったことで、それに――……。

――どれも、ほんのちょっと前にゴンがくれたものばかりだった。