夏空、蝶々結び。


いっそ、変人扱いを覚悟で、誰かに尋ねてみる?
ゴンが止める間もないほど、唐突に。
でも、そんなことに詳しい人が近くにいるだろうか? もしもいたとして、信憑性は?

考えれば考えるだけ、むちゃくちゃだ。
第一、無理に彼を送りたいわけじゃない。
そうなると、やはりゴンの気持ちが最優先だ。


(このままでいいはずない。なのに、そのくせ……)


『ゴンの気が進まないなら、もう少しだけいいか』なんて――……。


「かなえちゃん」


デート前にしては、あまりに怖い表情だったのかも。
慌てて取り繕ったのに、ゴンは全く触れてこなかった。


「そんなの、限りなくゼロに近いと思うけど。もし、万が一にも、いきなりそんなことになったら……」


なんだ。
一瞬でも、ドキッとした自分に苦笑する。
何だか、やけに重いトーンで呼ばれた気がしたのが馬鹿みたいだ。

ゴンに言われなくても、私だってあり得ないことは承知している。
同じ職場で働く者どうし、ただご飯に行くだけだ。先輩だって、立場上『奢る』って――。


「大澤、殴れよ」


(何言ってるの)


「できる、よな」


あんなに失礼なことを言った矢先、どうしてそう確認するのか。


「かなえちゃん」


返事を急かすように、強く私の名前を口にするのか。


「う、うん」


おかげで、考えすぎだって笑えなかった。
あんまり真剣に、最後は不安げに問うゴンを見たら。大人しく頷くほかに、何も言えない。

それに――。


(……いつも、ふざけて“雅人さん”なんて呼ぶくせに)


――初めて、先輩を吐き捨てるように苗字を呼んだ。