夏空、蝶々結び。



「馬鹿。そうじゃなくて、体調のことだよ」


苦笑いが漏れ、意識が今に戻ってきた。
そんなことがあったから、今日の仕事ぶりをまたチクリと言われるのだろうと思ったのに――どうやら、体を気遣っての言葉だったらしい。


「マジメ」


先輩の唇が、やや意地悪に上がる。

大澤先輩でも、そんなこと言うんだ。
優しいだけじゃない、そんな笑顔を浮かべたりするんだ――。

当たり前とも言えることに衝撃を受けてしまい、随分返事が遅れてしまう。


「……先輩に言われたくないもん」


ようやく出てきたと思えば、びっくりするほど幼稚なもので。およそ勤務中に相応しくない。
思わず顔を顰めたけれど、大澤先輩が聞こえていないはずもない。


「そういうこと言ってると、奢ってやらないぞ」


なのに、然して気にした様子もなく、さらりとこう付け足してきた。


「今度、空けといて」


(……………え!? )


一体、何が起こったのだろう。
どうして、いきなりそんな流れに?


「ほら、ぼうっとするな。今度やらかしたら、さすがに……」


これ以上、皆の前で恥を掻くのはごめんだ。
でも――………。


(……う……)


わざとらしく、先輩の眉が上がる。
何故だか分からないけれど、完璧に面白がっているのだ。


(ダメだ。見てるとやられる……!! )



いや、先輩が深く考えているはずはないし、からかわれているだけ。
それだけでも、今までの大澤先輩と比べると謎だけれど。


「痛っ!! 」


自席に逃げようとしたら、袖机で強烈にすねを打ち付け……ふらふらと椅子に座る。


(聞こえない……!! )


先輩のくくっと笑う声も、それから――。


「あの二人、何かあった? 」


――そんな、ひそひそ話も。