夏空、蝶々結び。



・・・



結果、どうなったかと言うと。


「アホ面。まーだ呆けてんの」


酷い悪口も、今日は許してやろうではないか。
というより、頭に入ってこなかった。


「あんた、いいよね。たったあれだけで、舞い上がれるんだから」


(舞い上がってるわけじゃないけど)


むしろ、体に力が入らずに崩れ落ちそう。
また言い合いになって、気まずいまま仕事をするのも覚悟していたのに――いや、気まずいのは気まずかったけれど。

大澤先輩があんなこと言うなんて、思ってもみなかった。



・・・



『あ』


今朝、執務室に入ると、先客としっかりと目が合った。


『お。雅人さんも早く来て待ってたんじゃない? いけ、かなえちゃん。頑張って、どうにかして可愛くね! 』


応援しているつもりが、少しでもあるのか。
ゴンが冷やかしてきた。


『お、おはようございます。先輩、昨日はすみま……』


気が散ってしょうがない。
視線がゴンに向かないように――でも、大澤先輩を直視できない。


『……うん。確かに佐々がやった方が早いし、やる気がない奴に教える方が面倒かもしれないけど。お前がやっちゃダメだった』


先輩の言うことはもっともで、だからこそ不思議だった。どうして、謝罪を遮ったのか。


『でも、俺もごめん』


私が言い終わる前に、先輩が謝るなんて。


『佐々より先に、もっとあいつを叱るべきだったし……それに、それっていつも俺がやってることだよな。説明する手間が省ける、佐々に頼りがち。それを今頃……』


それは、仕方のないことだと思う。
勤続年数が長い分、彼よりもスムーズだ。


『……とにかく。両成敗ってことで』

『……はい。すみませんでした』


先輩が話を終わらせた理由は分からないけれど、ここで長引かせる必要はない。
後になったことが申し訳なく、慌てて謝ると少し照れたように笑った。


『そういえば、最近雰囲気変わったよな。何かあったんじゃないか? 』


首を傾げる私に、居心地悪そうにして先輩は言ったのだ。


『たとえば、彼氏ができた……とかさ』