「あれ、佐々早くない? ちゃんと休憩取った? 」
実をいうと、ものすごくダッシュで帰ってきた。
帰りに買ってもいいかな、とは思ったけれど――やっぱり、出来立てに近い方が美味しいだろうし。
(パッと渡して、お昼食べればいいか。恥ずかしいし)
そう思うのに。
『この前はありがとうございました』
そんな単純な言葉も、タルトを持った手も。
どこかに引っ掛かったまま、それ以上出てこない。
「かーなーえーちゃん!? 」
痺れを切らしたように、ゴンが檄を飛ばしてきくる。
ビリッと何かが空気を走り抜けた気がして、心を決めた。
そうよ、せっかくあんなに並んで買ったんだから。
「せ、先輩、あの、これ……」
「ただいま戻りましたー」
勢いづけて駆け寄ったのと、カナちゃんののんびりした声が響いたのは、ほぼ同時だった。
「これ、差し入れです」
そう自然に視界に入ってきたのは、テレビでも紹介されていたチョコレートケーキ。
「あー……」
ゴンが妙な声を出し、目を逸らす。
でも、それもそうだろう。
私だって、張り合うようにタルトを見せるなんて、ちょっと無理だ。
「おー、カナちゃん優しい」
「俺でも見たことある。有名な店のやつだろ」
そうです。
私が並んだ店のすぐ近く。
どっちにしようか、実は迷ったのだ。
「大澤さんもどうぞ」
私が心の中で答えただけで、カナちゃん自身はその声を無視して先輩のデスクへ。
その足取りはごく自然で、より近くにいるはずの私よりも早く到着した。
「あー、悪い。俺、甘いもの苦手で」
私にとってもトドメだったと思うのに――ちょっとホッとしまう自分が、すごくすごく浅ましかった。



