「……だから、俺、名無しでいいや。これ以上辛い思い、あんたにさせたくないから」
こうまで大切にしてくれるのに、どうして私が彼のこれからを奪えるだろう。
「……結構キツイね。俺もあんたの名前、訊かなきゃよかった」
名前を呼べる痛みも、名前を知らない悲しさも。
私達はお互い想像できていて、胸の奥で混ざり合ってじわじわと広がっていく。
「かなえちゃん」
そう言いながらも、ゴンは最後まで私の名前を呼んでくれた。
「好きだったよ。ムカつく男に乗り移ってでも、あんたをめちゃくちゃにしたいとか思うくらい……」
――好きだった。
最初で最後の告白。
「それはそうと、あんたそんな芸当できたんだ」
それが過去形だったのに、気がつかないふりをした。
「芸じゃねぇよ、別に」
けしていい出来ではなかったが、ゴンも知らないふりで返してくれた。
「俺も賭けたの。普段の俺には、人間に乗り移るのは無理ぽかったけど。こいつ、オフィスで酔い潰れてたんだもん」
先輩が?職場で?
「あんたにフラれて、よっぽどショックだったんだろ。あと……多分、こいつも微妙に霊感あって……もしかしたら俺の存在、感じてたりしてな」



