泣いているのは、ゴンの方かもしれない。
見てはいけないのかと目を落とすと、ふっと笑って手のひらで頬を包まれた。
『これくらいなら、まだ平気』
あまり平気そうには見えないのに、頬っぺたに指を往復させ、私を甘やかしてくれた。
「この前はああ言ったけど。もし、ここに未練があるなら……あんたに名前、呼んでもらえなかったことかな」
もっと他に、たくさんあるだろうに。
これまでにないほど、いや、だからこそ――甘い言葉を吐くゴンが切なかった。
甘いものはいつまでも残らないと、ふっと蕩けて消えてしまうものだと言われているみたいで。
「あーあ。こんな時まで“ゴン”なんて、萎えるんだけど。かなえちゃんのせいだからな」
私の体が強張ったのに気づいたのか、そんな本気とも冗談ともとれることを言い、私を抱きすくめた。
「本当の名前教えたら……本気でどうしようもなくなる。取り憑くどころか縛りつけて……あんたの一生、奪っちゃうから」
誘惑と戦うのに必死で、何も言えなかった。
『それでもいい』――そう口にできたら、私はどんなに楽だろうか。
(……言っちゃダメだ)
奪われるのは傷口を舐めてくれる。
けれども、自分の弱さが大切なひとの未来を奪うのは耐えられない。



