教室に着いて席に座ると、梓ちゃんが私の顔をのぞきこむ。




「ねえ、前から気になってたけど、菊里先輩となにがあったの?さすがに、突然ちょっかい出してきたわけじゃないだろうし」




うう、梓ちゃんにも聞かれちゃった。


でも、みんなが気になるのも当然だ。


整った容姿とそれをひけらかさない穏やかな性格で、学年中、いや、学校中の目を引いている、二年生の菊里李世先輩。


一方で私、蓮井陽茉は、目立たないどころか、目も当てられないくらい話すのが苦手な、地味な一年生。



そんな私に、先輩がかまう理由――って、なに⁉


むしろ、私が聞きたいよっ。



でも、一応、思い当たる出来事は……ある。


話してみて、梓ちゃんの意見も聞いてみよう。



私は息をゆっくり吸って、話す準備をする。


無意識にポケットに突っこんだ私の指先に、なめらかで少し湿った感触が走った。


そうだ。さっきつかんだ桜の花びらを、ここに入れたんだっけ。


李世先輩と初めて会ったのは……まだ桜が手の届かないところで、美しく咲いていた頃だったな。





「あ、あのね――」