李世先輩の競技が終わると、後ろの方の客席に座って、和くんと話していた。


ある瞬間、にぎやかな会場に、ちょっとしたざわめきが起こる。



「おい、あれって」

「ああ、さっき1位とってた菊里だ」




「わっ、近くで見るとめちゃイケメン!」

「ライン交換してくれないかな⁉」

「でもなんか、そういう雰囲気じゃなくない?」



そんなウワサ話が耳に入って、視線を和くんからスタンドの入り口へ移すと、タオルを首にかけた李世先輩がいた。



私に気づくと、無言で客席を上がってくる。





なんだか、いつもの李世先輩じゃないみたい……。


整った顔に表情がこもっていないと、氷のように冷たく感じられる。



……やっぱり、大事な局面で声をかけちゃったこと、怒っているのかな。



動けないでいると、和くんがすくっと立ち上がった。





「菊里先輩、大声を出してしまって、すみませんでした!」



そして、大きく頭を下げる。





「や、やめて、和くん!先輩、悪いのは私なんです。和くんは、私のために――」




「……和くん?」


「へ?」



「ずっと一緒にいたその子、『和くん』っていうの?」



先輩は腕を組んで、静かにそうたずねる。