李世先輩は私のことを知り尽くしている?



和くんの低い声が、びりびりと競技場にとどろく。


今はちょうど、誰も競技をしていなかったからよかったけど。


タイミングを間違えていたら、競技妨害になってしまいそうなほどだ。


その直後、李世先輩の顔がくるりと私たちの方を向く。



やった、和くんのおかげで気づいてもらえた!


李世先輩は、驚いたように目を丸めていて。



それから、私と和くんとに、交互に視線を向ける。



――李世先輩、がんばってください!




50メートル走の時と同じように、心の中で念じる。



また、「ありがとう」と李世先輩の口元が動くと私は思っていた。




でも、先輩が唇を動かすことはなくて。



それどころか、雲った表情をしている気がする。




そのまま何も反応せずに、私たちに背を向けてしまった。




「陽茉のこと、気づいてたよな?よかったな!」

「う、うん。ありがとうね」