終業式が終わった放課後。



「蓮井さん」



ゆっくりと様子を伺うように、私以外誰もいない教室のドアが開いた。




「古瀬くん。わざわざ来てくれて、ありがとう」

「いえいえ」




――今朝、私は古瀬くんに話しかけた。




「あの、李世先輩のことで、相談したいことがあって。今日の放課後、二階の空き教室に来てもらっていいかな?」

「もちろん」




私から話しかけることはあまりなかったから少し驚いていたけど、すぐに了承してくれた。



そして今、私の相談を聞くために、来てくれたのだ。





「それで、菊里先輩についての相談って?」


「……李世先輩、二週間まえくらいから、ずっと様子がおかしいの。私が話しかけてもすぐに立ち去ろうとするし……。メッセージを送っても、全然反応してくれなくて」


「そうだったんですね」

「うん……。古瀬くん、なんだか李世先輩のことに詳しいし、なにか知らないかな?」

「そうですね、今回は、残念ながら……」




「……本当に?」




そうできるだけ低い声を出してたずねると、古瀬くんの顔が上がった。



「……本当に、とは?」



緊張のあまり、ドクドクと心臓が暴れ出す。

それでも私は古瀬くんから目を逸らすことなく、震える口を開く。




「古瀬くん、李世先輩の様子がおかしくなった原因、知ってるんじゃない?……いや、知ってるどころか、関わっているよね?」



古瀬くんは不思議そうに首を傾げた後、ぱっと尋ねる。




「もしかして、なにか菊里先輩から聞きました?」

「ううん。さっき言った通り、李世先輩はあれから全然話してくれないよ。だから、今古瀬くんを疑っているのは、私のカン。ちなみに、私に彼氏がいるってウワサを流したのも、古瀬くんじゃない?」



「……そっか。ふふ、まさか、蓮井さんに疑われる日が来るなんてね。でも悪いけど、僕はなにも知らないよ?単に菊里先輩が、蓮井さんのことを嫌いになっただけじゃない?」




古瀬くんの言葉に、私はほんの少しも動揺しなかった。

それよりも、今からしなければならないことに対する罪悪感の方が強い。