古瀬くんと、李世先輩について話した数日後。


梓ちゃんとおしゃべりしながら次の授業がある教室へ向かっていると、遠見先輩と一緒に歩いている李世先輩を見かけた。


私はすぐに駆け寄って、二人に挨拶する。




「李世先輩、遠見先輩、こんにちはっ」

「ご無沙汰してます」

「ああ、蓮井に葉山か」


「……二人とも元気そうだね」


「はいっ。李世先輩は、顔色が悪いような……寝不足ですか?」





心配になった私は、少し顔を近づける。


すると李世先輩は一歩後ろに引いて、距離を作った。





「ああ、うん、そんなところ。それじゃあ」

「おいっ、李世?」




李世先輩は素っ気無く返事すると、さっさと歩いて行ってしまう。





「……なんか、菊里先輩らしくなかったね?」


「うん……」





梓ちゃんの言う通り、さっきの李世先輩は、どこかぎこちなかった。

遠見先輩も目を丸くしながら後を追いかけていたし。





「李世先輩、相当体調が悪かったのかな……」

「かもね」




咳はしていなかったし、最近日差しが強いから、熱中症とかかもしれない。


私に、なにかできることはあるかな――そうだ。




「スポーツドリンクとか、ゼリーとか、差し入れしたら、喜んでくれるかな?」





梓ちゃんにそう聞いてみると、梓ちゃんは強くうなずく。




「うん、すごくいいと思う!私もお菓子とかほしいし、今日の放課後、一緒に買いに行こ!」


「うん!……そういえば、梓ちゃんって」

「ん?」


「その、李世先輩に対する態度、だいぶ柔らかくなったね」






思い返してみれば、4月の頃なんて、私が李世先輩と話すだけでイヤそうだったのに。

最近はむしろ、積極的に肩を押してくれているような……。



梓ちゃんも心当たりがあるのか、恥ずかしそうに頭をかく。




「正直、最初はなーんか胡散臭いなって思ってたけど、だんだんと陽茉と真剣に向き合おうとしている姿勢が伝わるようになったんだよね。それに……」


「それに?」


「陽茉、菊里先輩のこと、4月の時よりも、ずっと好きでしょ?」



「……うん」






私が恥ずかしがりながらも肯定すると、梓ちゃんは目を細めて微笑んだ。





「だったらもう、全力で応援するしかないでしょ?」


「梓ちゃん……本当にありがとう」


「だって、陽茉の幸せがあたしの幸せだもん。菊里先輩が喜びそうなもの、一緒に考えようね」





ああ、幸せ者だなあ、私。


李世先輩に感じた違和感はすっかり頭から抜けて、先輩が好きそうなものを、梓ちゃんとワイワイしながら考えた。