「――さん」




「蓮井さん」



「……あっ、はい!」






誰かに話しかけられて、ハッと我に返る。


放課後の教室を見回すと、すっかり人気がなくなっていた。


ええと、委員会がある梓ちゃんと手を振り合ったのは覚えているんだけど……。



もしかして、それからずっとぼんやりしていたってこと?


慌てて声をかけてくれた人を見上げると、相変わらずボサボサ頭の古瀬くんだった。






「最近、考え事をしていることが多いですね」


「そ……うかも」





確かに、否定はできなかった。


この前も、ぼーっと歩いていたせいで不良たちのケンカシーンに遭遇しちゃったし。






「その原因って、菊里先輩ですか?」


「えっ、う、うん」





ズバリと言い当てられて、ドキッとする。


自然教室で同じ班になった古瀬くんは、なにかと私の周りのことを把握しているんだよね。


私の交友関係が狭いせいでもあるだろうけど……。




「僕も、菊里先輩のことで気になることがあるんです」

「古瀬くんも?」




私が目をパチクリさせると、古瀬くんはふいに窓の外へと視線を移す。

その先には、江真くんにしつこくつきまとわれている体操服姿の李世先輩がいた。


きっと、これから陸上部の練習があるんだろう。


古瀬くんはじっと李世先輩を見つめたまま話を続ける。





「菊里先輩には、なにかヒミツがあると思いませんか?」


「ヒミツ……?」


「ええ。僕たちに――蓮井さんにも隠しているなにかがあると思うんです」






古瀬くんの言葉に、無意識に緊張感が走る。


李世先輩が「もう少し待っていてほしい」と言ったことと、なにか関係があるかもしれないと思ったから。





「……わ、私も、そう思う」






古瀬くんの顔が、ぐるりと私の方へ向いた。

ドキドキしながらうなずくと、古瀬くんの唇は弧を描き、「へえ」とつぶやく。


わわ、すごく興味をもたれたみたい。