その日の帰り道。


私はぼんやりしながら、なんとなく歩いていた。


そのせいで、いつもなら通ることのない不慣れな道の方へとそれてしまう。


すぐに気づいたけど、駅の方角には違いないし、気分転換にいいと思って、そのまま進み続ける。




――でも、それが、間違いだった。





「ぐああっっ!!!」


「た、頼む、もう抵抗しないか――あああああああっ!!」





次々とあがる男の人の悲鳴。


体が壁や地面にぶつかる激しい音。


黒のゆるいパーカーを身に纏った男の子が、狭い路地で5,6人の男を制圧していた。


倒れこんで動かなくなった体を容赦なく蹴とばす、スラリと長い足は止まらない。



こんな暴力的な場面に遭遇するのは初めてで、早くこの場を離れたいのに、うまく足が動かなかった。



気が済んだのか、男の子はピタリと体を静止させると、地面に転がる男の人に目もくれずこちらを振り向いた。



――細い漆黒の髪をオールバックにしたその男の子と私を隔てるものは何も無くて、一瞬にして目と目がぶつかる。


色素の薄いグレーの瞳がすごくキレイだ。



思わず見惚れているうちに、凶暴な男の子は私との距離を一気に詰める。


――彼の長い手足が届く範囲内だ。




「あ、あの、わ、わたし、は」




途端に恐ろしさが勝って、体が震え始める。


うまく言葉が出ない。



そんな情けない私の姿を見て、彼はきゅっと目を細めて艶やかに笑った。




「安心しなよ、女子どもに見境なく手を出したりしないから。というかあいつらだって、向こうが吹っ掛けてきたからだし」




こんなに印象的な瞳に加えて、凶悪な一面ももつ人と出会ったことは、私の人生で一度もないはず。


それなのに、この不敵な笑みを見るのは初めてじゃない気がするのは、どうしてだろう……。




「特にあんたには、ステキな騎士様がついているしね。手を出したりできないよ」


「き、騎士様……?」


「ああ。それも不思議な力を持った、ね」




目の前にいる男の子はうなずくと、ぽんと私の頭に手を置いた。




「でもまあ、そろそろ動くのもアリか」





意味深なつぶやきとともに、サラリと頭をなでつける。


その手は優しかったけど……まるで、子犬の毛の感触を楽しむようだった。


突然の接触に私が驚いているうちに、ぶかぶかのパーカーのフードをかぶり、背を向けて歩いていってしまった。



はあ、びっくりした……。



まるで、私のことを知っているような口ぶりだったけど。



一体彼は、誰だったんだろう……?