私もつられて笑顔になると、上から強張った声が響く。
「おーい、陽茉ちゃん、聞こえるーっ⁉」
この声は、李世先輩だ!
「は、はい、聞こえます!」
上を向いて返事をすると、李世先輩の表情が和らいだ。
「今、どういう状況ーっ?なにかいる物はあるーっ?」
状況に、必要な物。
距離があって聞こえづらいし、できるだけ簡潔に、正確に伝えないといけないよね。
えーと、えーと……。
「火事場の馬鹿力」はどこへやら。
力が抜けてしまったようで、うまく頭が回らない。
全身の擦り傷が、ズキズキと痛み始める。
私がわたわたと考えていると、再び李世先輩の声が飛んできた。
「——陽茉ちゃん、俺の目を見て!」
え、李世先輩のことを?
ど、どうして?
意図が全く分からないけど、先輩の真剣な声音につられ、私は視線を合わせる。
かなり距離が離れているのに、先輩の瞳は、私を捉えて逃さない。
……10秒ほど、経った頃だろうか。
「よし、分かった。陽茉ちゃん、もう少しだけ待っていて!」
李世先輩はそう言い残し、元来た道を走る。
そ、そんなに急いだら、先輩まで落ちちゃうよ……!
私の心配をよそに、李世先輩はしばらくすると、先生や救助隊の人を連れて戻ってきた。
軽い擦り傷を負った私はもちろん、体が動かせないほどケガのひどいつぼみちゃんも、無事に崖から引き上げられた。
友達のためとはいえ、無茶な行動だと大人からお叱りを受けてしまったけど、李世先輩が「陽茉ちゃんが彼女のそばにいて、状況を的確に伝えてくれたからこそ、スムーズに救助することができたんです」とかばってくれたことで、それ以上はお咎めナシで済んだ。
私は、李世先輩にうまく伝えることができなかったはずなのに……?
初めて会った時から、李世先輩には驚かされてばかりだ。
どうしてそんなにも、私が考えていることがわかるんだろう?
