「怖い騎士(ナイト)がついているなんて、聞いてなかったんだが……。まぁ、いい。協力者が増えるなら都合はいい」

ブレザーの襟を正しながら、先輩が起き上がる。

そして、こう私たちに言った。

「お前ら。今日、俺が立ち上げる同好会に入れ」

と。

一瞬、先輩が何と言ったのかが分からなかった。

『立ち上げる?』

『同好会?』

『入れ?』

急すぎる展開と、先輩から飛び出る意外な言葉の数々に、私の頭の中はキャパオーバーしかけていた。

「あぁ、ちなみに夏目 茜。お前には拒否権は無しな?」

どこまで横暴で、俺様な先輩なんだろうか。

正直なところいくらセレブだと言っても、みんなこんな性格の男が好きだなんてまったくもって理解できないし、したくもなかった。

「どうして私が、よく知らない先輩の言うこと聞かなきゃいけないんですか?」

第一、私と目の前の先輩は昨日初めて話した程度の間柄だ。

何故、そのような関係性でしかない先輩の言うことを聞かなければならないのか。それが、何よりも甚だ疑問だった。

「アホか。どうして俺が恋人でも無く、好きでもないお前を担いだのか、まだ理解出来ていないのか」

『これだから凡人は……』と、言わんばかりのうんざりとした表情で、先輩は言う。

「醸し出しただけではあるが恋人同士にある可能性があると、生徒たちの前でパフォーマンスしただけだ」

続けざまに発した言葉に、私は開いた口が塞がらなかった。

「こうすれば、否が応でもお前は俺に協力するしかなくなるだろう?」

つまり私は、先輩の同好会設立のために利用された、というわけだ。

この人は、この学校では女たちからは黄色い声が上がるほどの人気者であり、さらには財閥の御曹司でもある。

今回の一件で、女の嫉妬の標的は栄えあることに私にうつってしまった。

ああ、確かに平和に生きたかった私は彼が言ったように、『否が応でも協力するしか』なくなってしまった。