次の日、私はとんでもない人に捲し立てていたことを知ってしまった。

いや、ただ単に私が無知なだけだった話だったんだけど、あのやけに顔がいいイケメンさんの名前は、成瀬 奏汰。

世界中にあるホテルやリゾートを経営している財閥、NARUSE グループの社長令息及び御曹司だった。

しかも、このM学園の大口の投資者であることも友人から聞いて肝が冷えるどころか、心臓が口から出ると思った。

「茜はイケメンとかそういうのに疎いって言うか、興味無いもんね」

「どうしよう……! 機嫌損ねたら、強制退学とかされないかな!?」

「……気にするとこ、そこ?」

友人のチカは、困ったように笑う。

「だって、お義母さんに無理言って学費出してもらってるし……! さらには、義弟もここ通ってるし……! ダブル学費だし! 」

「まぁ、それでいいって言ってくれてるんでしょう? 子供は甘えていればいいと思うけど」

チカは無糖の缶コーヒーを飲みながら、サンドイッチを頬張る。

さすが、ブラックコーヒーが飲める人が言うことは違う。

「で、顔見ながらでは無いけど、ちゃんと謝ったのよね? 無問題だと思うけど」

「そうであってほしい……」

半泣きになりながら、パックのミックスジュースを啜る。

一気に女たちの黄色い悲鳴が沸き起こる。

あぁ、大体理解は出来たけど、納得したくはなかった。

「どうして、成瀬先輩が二年生のクラスに!?」

「先輩、やっぱりイケメン!」

「先輩ー、どうしたんですかー?」

何故、このタイミングで。

何故、このクラスに件のおセレブ様がいらっしゃるのでしょうか。

「オイ、このクラスに夏目 茜とか言う女は居るか」

やめてくれ。

クラス中の女たちの視線が痛い。視線だけで殺される気がする。

「イマセーン。シリマセーン」

チカは「ご愁傷さま」と、言わんばかりに手を合わせている。

「オイ、お前どこからどう見ても夏目 茜だろうが」

「チガイマース」

チッ、と成瀬先輩が舌打ちをすると、私の身体が宙を浮いた。

成瀬先輩が私のことを抱き上げ、片手で肩に担いだのだ。

「は!? 何してんですか!?」

「お前が言う事聞かねえから、こうしてんだろうが」

「私は米俵じゃないんですけど!?」

ズンズン歩き出した先輩の背中を拳で殴り続ける。

「おうおう、暴れんな」

「やめてくださいって! パンツ見える!」

「誰も、お前のくまさん柄のパンツなんて興味ねえよ」

「てめっ、! 見たな! この変態!」

「お前が勝手に見せてんだろうが」

ジタバタしても殴っても止まらない先輩に負けてしまった私は、まるで物干し竿に干されたタオルのように項垂れた。