「ご、ごごごごご、ごめんなさいいいい!」

そう叫びながら、私は逃げるようにセラちゃんの教室へ人生で一番なのでは、と言うほどダッシュをした。

途中、先生の怒号も聞こえた気がするけれど、私は知らない。

さっきのあの人、ネクタイの色が赤色だったから三年生の先輩だろう。

先輩に向かって、とてつもなく失礼なことを大声で口走ってしまった。

それだけが、今の私を支配していた。

「……何で、弁当箱持ってくるだけでそんなに疲れきってんだよ?」

「……聞かないでおくれ、我が義弟よ」

その酷さは朝、微妙な空気だったセラちゃんにも心配されるほどだった。



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「ご、ごめんね。奏汰くん、遅くなっちゃって……!」

「あ、ああ……。それより、桃弥(とうや)。アルバイトの許可は無事取れたのか?」

「うん! 奏汰くんのおかげで、許可降りたよ!」

桃弥と呼ばれた可愛げがある青年は、安心したようにクリアファイルに入った印鑑が押してある許可証を奏汰と呼ばれた青年に見せる。

「よかったじゃないか」

「うん!これで少しはお母さんも楽できるよ!」

奏汰は、どこか安心したように微笑みを浮かべる。

「……奏汰くん。何か、いいことあった? 楽しそう」

「……いいこと、と言うよりは面白い物を見つけた。桃弥、明日予定通りやるぞ」

桃弥は嬉しそうに、「うん!」と頷く。

これが夏目 茜と成瀬 奏汰の邂逅であり、お互いの運命を大きく変える出来事であることは、この時誰も知らなかった。