「セラちゃん、おはよう!」

そう言うと、セラちゃんの表情が固まった。

「……なぁ、いい加減その名前で呼ぶのやめてくれないか?」

少し不満げのセラちゃんは前髪が鬱陶しいのか、掻き上げながらそう言う。

「うん? でも夏目くんって呼んだら、私も今は苗字が夏目だから違和感あるし、だからセラって呼ぶのも違和感が……」

「……あー、やっぱいいわ。セラちゃんで……」

ほら、ブレザー。と言って私のそれを押し付けたセラちゃんの顔は、少し赤くなっていた気がした。


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「やっぱり、お義母さんの作るご飯美味しいー」

白米にお味噌汁に、甘めの玉子焼き。

在り来りだけれど、その素朴さがたまらない。

それにお義母さんのご飯は、とっても美味しい。

「あら、茜ちゃんにそう言って貰えてとっても嬉しいわ! 最近、星羅も思春期に入ったのか、そういうことあまり言ってくれないからねー」

もぐもぐと咀嚼しながら、隣で黙々と食べ続けるセラちゃんの脛を少し蹴ってみる。

少し怒っているのか鋭い視線を私に向けた後、脛を少し強い力で蹴られた。少しだけ痛かった。

「……セラちゃん、お義母さん大事にしなきゃダメだよ」

本当はしたくはなかったけど、これでもかと嫌味を含めて言った。

言葉の意味をくみ取ったセラちゃんの表情が、苦く歪む。

「……今日も、飯うまかった」

「それでよし!」

もう、私にはできないことだから。

私には、本当(・・)の家族はもう居ないから。

謝ることすら、出来ないから。