「あの子が成瀬先輩の恋人らしいわよ?」

「ええ? あの芋女が?」

すれ違いざまに浴びせられるのは、心無い言葉やその他諸々。

まあ、それに関しては両親が死んだ時に散々言われてきたから、今更傷つくこともない。自分の顔が整っていないことも重々承知だから、特に何も思わなかった。

「泣き付いてくると思っていたが、意外と肝が据わってんだな」

屋上で一人で昼食をとっていると、どこから現れたのか知らないけれど、成瀬先輩が扉に背中を預けていた。

「別に。人並以上に慣れてるだけですが。……それに、何でここに居るんですか?」

「ん? お前と昼飯を食うためだが?」

私たちはそもそも『恋人ごっこ』の筈だ。だから、別に必ず一緒に居なくてはならないわけでもない筈。

「私たちの関係は『ごっこ』の筈では?」

「……はあ、馬鹿か。『ごっこ』でも、俺が恋人に会いに来るのに理由なんて要らねえだろうが」

コンビニの袋を手からぶら下げ、私の隣に腰を下ろす先輩。

「……意外です。コンビニのものをお召し上がりになるんですね」

少しだけときめいてしまった心臓に必死に蓋をして、話題を反らす。

「意外、って。これでも18歳の高校生だからな。ジャンクフードとかも普通に食うわ」

それに、と先輩は続ける。

「金持ってんのは、俺じゃねえよ。……俺の親だ」

そう空を見上げながら言った先輩の瞳は、どこか寂しそうだった。