「ああ、そうだ」

成瀬先輩は思い出したように言う。

「今日からお前と俺は、恋人同士のフリ(・・)をすることになるわけだが」

「……奏汰くん、本当何したの?」

柳瀬先輩の呆れたような言葉に一度は声を詰まらせた先輩は、咳払いをして続ける。

「俺がお前を好きになることは、万が一にも無い。お前も、俺に惚れるんじゃないぞ?」

……前言撤回。

「誰が! アンタみたいな唯我独尊 俺様男好きになるもんですか! こっちから願い下げだわ!!」

「ハッ。言ってろ」

不敵に笑うその顔に、ものすごく腹が立った。

こんな俺様男、死んでも好きになるか!!!!

……なんて、言えていたこの頃。この頃がまだ、幸せだった気がする。

彼の真実と、もう一つの真実を知る時、私の運命は大きく変わる。

そんなこと、この時の私には分からなかった。

……分かりたくもなかった。