急いで着替えを済ませ、かばんを手に家へとタクシーで向かう。若菜と普通に付き合っていたなら、毎回家に帰るたびにこんなに緊張することはなかったんだろうな……。

「逃げていないといいけど……」

鍵穴に鍵を差し込み、ゆっくりとドアを開ける。電気が消されたリビングから音は一切聞こえてこない。ドクン、と心臓が音を立てた。

「若菜?」

リビングのドアを開けると、若菜の姿はそこになかった。普段はテレビを見ていたり、ソファの上で読書をしていたり、寝落ちしてしまっていたりする。何となく嫌な予感がした。

リビングに転がっている足枷のそばには、俺が用意したヘアピンが落ちている。ドクドクと嫌な予感を募らせながら、俺は地下室へと続く階段を降りる。

「七海が地下室へ連れて行ってくれたんじゃ……」

その期待は一瞬にして打ち砕かれた。若菜のために用意した家具、拘束具が置かれた地下室に、あの愛おしい姿はどこにもない。逃げられたんだ、若菜に。