「さて、お昼までまだ時間はあるし何しようか?」

圭さんは私を離してニコリと笑う。その表情は、恋人にしか向けない本当の圭さんの顔なんだと思う。

「じゃあ、一緒に音楽聴こう?」

もう今日で全部終わってしまうから、急にいなくなってしまうわけだから……。私は初めて圭さんに心からの笑顔を見せ、圭さんの腕に抱き付いた。



「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

チュッ、と音を立てて唇が触れる。お昼ご飯を食べた後、圭さんは仕事に行くために家を出た。

キスをしてお見送りをした後、私は一人ーーーではなく牧さんとお留守番だ。

「若菜様、お茶を淹れましたのでよろしければお飲みください」

「ありがとうございます、牧さん」

機械的に仕事をこなす牧さんにお礼を言い、ソファに座って読書を始める。圭さんにおすすめされた本だ。けっこう面白くて気に入っている。

(脱出して落ち着いたらこの本、買って読もうかな)