圭さんに誘拐されて五ヶ月ほどが経った。今日も圭さんは午後から仕事。大人気俳優なだけあって、海外へ行くことも増えた。その代わり、家に帰ってくると私のことを溺愛してくるけど。

圭さんがいない、というのは脱出のチャンスが増えるということ。もうそろそろ脱出してもいい頃かもしれない。圭さんにはかなり信頼してもらっていると思うし、いつ財布を取り戻したかバレるかわからないからね。

「若菜、髪をといてあげる。ここに座って?」

頬を赤く染め、とろけたような目をした圭さんがくしを手に椅子を持ってくる。仕事に行く前にたくさん私に触れたいらしい。朝ご飯の時、圭さんが言っていた。

「あ、ありがとう……」

今日、私はこの人から逃げ出す。五ヶ月という時間はとても長かった。世間が誰もこの事件に気付いていないことに驚いて、でも自由になりたいと必死に考えてきたの。

内心、少し緊張している。この家の外に出たら親切そうな人を何とかして見つけて警察を呼んでもらわなくちゃいけない。もしも人がいなかったら、近所にある家の呼び鈴を押そう。