休憩中、他の出演者たちは楽しそうに話をし、スタッフたちは忙しそうに動き回っている。そんな中、俺は次のシーンの台詞をもう一度頭に叩き込んでいた。ミスはなるべくしたくない。若菜の待つ家に早く帰りたいからね。

「君の全てを手に入れていい……?」

台詞を一つずつ心を込めて口にする。この台詞を若菜に言って、若菜が頷いてくれたらどんなに嬉しいだろう。腕の中に閉じ込めて、この手で壊してしまわないか心配だ。

「紫水さん、お疲れ様ですぅ〜」

演技の世界から妄想の世界に入りそうになった時、甘ったるい声が現実に戻してくれた。気が付けば俺の横に主演女優が座っていて、あざといポーズをしながら微笑んでいる。

「紫水さんのことぉ、ずっと憧れていたのでぇ、こうして共演できて嬉しいですぅ!」

「そ、そう……。ありがとう」

ゾッと寒気が体に走った。こういう女、一番嫌いなんだよね。俺に媚を売って気に入られたいという魂胆が見え見えだ。