「若菜を誘拐してからは仕事を頼んでいなかったんだけど、ちょっと頼まないといけない事情ができてね……」

「事情?」

「海外ロケに行くことが多くなりそうなんだ。俺がロケに行っている間、若菜や猫のお世話と家事をお願いしようと思って」

突然脱出のチャンスが舞い降りてきたことに、私はとても嬉しくなる。男の圭さんには力で敵わないけど、牧さんは私とそれほど身長差もないし、脱出できるチャンスはきっとたくさんある。

私が心の中で喜びに浸っていると、「逃げようと考えていますか?」と機械のような温もりのない声で牧さんに訊かれる。圭さんにもジッと見つめられ、私は慌てて首を横に振った。

「そんなわけないじゃないですか。仮に逃げたとしても、私には居場所がどこにもないんですよ?」

その通りだ。無事に逃げれても、私の居場所はもうどこにもない。圭さんに居場所を奪われてしまったから……。住むところも、働くところも、何もない。でも諦めるわけにはいかない。何もなくても、私は自由に生きていきたいんだから!