こんなことを言うなんて、必死にファンを手に入れようと自分を磨いているポッと出のアイドルからは恨まれるだろう。でも、キャアキャア馬鹿みたいに騒ぐファンをこれから見なきゃいけないとなると気が滅入る。

「紫水さん、風下さん、もうすぐお時間なのでスタンバイの方、お願いします」

ああ、もう行かなくちゃいけないんだ。陵は「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げ、俺に「行きますよ」と声をかける。俺はダルそうなのを誤魔化すことなく返事をし、スマホをテーブルの上に置く。

『握手会、めっちゃ楽しみ!興奮しすぎて寝られなかった!』

『本物の圭くんに会えるんだ〜。しかも握手できる!気絶しちゃいそうw』

『圭様〜!!愛してる!!結婚して!!』

Twitterで今日のことを検索してみれば、馬鹿みたいに騒ぐコメントがたくさん見つかった。ファンがいないとスターは輝かないとわかっていても、馬鹿騒ぎする人って苦手なんだよ。

「それでは、紫水圭さんと風下陵さんの登場です!!」

司会者がそう言った刹那、ステージの向こうから聞こえてくる黄色い声。耳栓しちゃダメかな?

「行きましょう、みんな楽しみにしてるんですから」

「ああ。全力で俳優の紫水圭を演じるわ」