「すみません、実は駅に行きたいんですけど道に迷ってしまって……。まだ東京に来たばかりなので、全然場所がわからないんです。スマホは充電がなくなってしまったので、使えなくて……」

困ったように男性は言う。きっとこの寒い中、何時間も迷っていたのかもしれない。そう思うと、かわいそうだなという気持ちが生まれた。

「そうなんですね。私もこっちに来た頃は迷ってばかりでした。駅は通りに出てまっすぐーーー」

男性に道を教えるため、彼に背を向ける。すると、背後から急に腕を回されて体を固定された。声を出そうとした口は布で塞がれる。ツンとした独特の匂いがした。

ゆっくりと眠気が押し寄せてくる。眠ってはいけないと思っても、抗えない。私は男性に体を支えられたまま、意識を手放してしまった。



「……ん」

目を開けると、白い天井が見えた。あれ?さっきまで家に帰るために歩いていたんだけど……。

体を起こした刹那、全く知らない景色が目に入る。まるでおとぎ話のお姫様の部屋のように、豪華な装飾が施された家具の数々。私が寝ていたベッドも、天蓋付きのものだった。