華ちゃんと凪沙さんは同じマンションに住んでいるらしく、いつも一緒に帰っている。でも私は二人の住むマンションとは反対方向に住んでいるので、店の前でお別れだ。

「また明日〜！」

「若菜ちゃん、また明日！」

「うん、また明日！お疲れ様でした〜！」

手を振って別れ、マンションへと早足で歩く。日はとっくに沈んでいる。都会で夜も明るいとはいえ、物騒な事件は起きている。この前もニュースで女性が暴漢に襲われたってやっていたし、早く帰らないと。

刹那、裏路地から一人の男性が飛び出してきた。急なことだったので避けることもできず、私はその人に思い切りぶつかってしまう。

「す、すみません！大丈夫ですか？」

男性は慌てたように謝ってくれる。私もぶつけて痛い鼻をさすりながら、「いえ、こちらこそすみません」と謝った。

男性は、全身夜の闇に溶け込むかのように真っ黒な服を着ていた。昼間、街中をうろついていたら一発で通報されるだろう。顔は辺りが暗いため、よく見えない。