――…



…そうだ

それから
森に来ても追い返される事はなくなって
森の『中』に入ることも許してくれた



「なんだ」

「なんでもない」


雪のように白い体に
月のように綺麗な瞳で
花のような模様の羽を持つ


そんな雪月花の鳥の雛を眺めながら
ちらりとロウを盗み見ていた私

視線に気付いたロウは訝しげな表情


【みや】


傍にいた半透明のヒト型の生き物が
くいくいっと私の服の裾を引っ張る


「うん?」

【森の『外』
曲霊(まがひ)たくさん】

【みやがいつも通る場所にも】

【帰る時、気を付けて】

「わかった。教えてくれてありがとう」


忠告してくれるみんなに
お礼を言って笑いかければ
ふっと、その半透明な体がうっすらオレンジ色に染まる


…喜んでる


感情によって色が変わるその体のおかげで
顔がなくても、気持ちが分かりやすい


「最近、境界付近をうろついてるのが増えたな」

「森にどれくらいいる?」

「さあな。
何十年も、何百年も塞ノ神が送ってやってるが、数は一向に減らん」


「この地に縁のある魂の『御霊送り』はとっくに済んでいるはずだが」


「今、境界をうろついてるのは
塞ノ神を頼って、他所からやってきた魂だろう」

「…みんな、向こうに行けないの?」

「直霊(なおひ)ならともかく
曲霊の場合は自力では難しい」


そこまで話して
ロウはおもむろに空を見上げる


「…そろそろ日暮れだな
境目まで送る」

「うん」


【気を付けて】

【ばいばい。みや】


「ありがとう。ばいばい」



木霊(こだま)のみんなに手を振り返して
私は先に歩き出していたロウの後を追った