休憩室のソファで横になったアリシアの手を握りながら、ステファンは彼女の意識が戻るのを待っていた。

「ステファン君。娘には私がついているから。ホールに戻ってウルスラ殿下へ謝罪して、お相手に戻ったほうがいいだろう」

 まだ曲の中盤で、ステファンは倒れたアリシアを目にした瞬間に、ウルスラの手を放して駆けつけたのだ。
 そのまま休憩室まで付き添って、今もその場に留まり続けていた。

「……婚約者が気を失っているというのに、他の女性の接待に向かうなんてできない」

「わかった。私が話をしてくるから、君はアリシアに付き添っていてくれ」

 フランが去ると、ステファンはアリシアの頬に手を当てて、その冷え切った体温を温めてやる。
 過呼吸を起こしたようだと聞いて、例えアリシアが快諾した後でも、ウルスラにダンスのパートナーを断りにいけばよかったと後悔した。

 けれど――

「アリシアは、なにに傷ついたの?」

 ヒーローが別の女性と踊っている姿を目の当たりにして傷つくヒロインに、自分を重ねたのだろうか。
 それとも、ステファンが別の女性と踊っていることに、アリシアの心が傷ついてくれたのだろうか。

 ――アリシアの心を深く傷つけてしまえるのは、他の誰かではなく、僕だけであってほしい

 例えどんな形であっても、アリシアの心に触れられるのなら嬉しいと思ってしまう。ステファンは己の仄暗い胸の内を自覚した。