わたしたちの好きなひと

「なによ、その顔。ああもう! 考えるの、やめやめ。自分でもなーんにも気がついてないヤツに、ひとりで熱くなったって、しようがないわ」
 岡本が言って。
 わたしの背中をパンパン叩く。
「痛い…な、もう」
 なにがなんだかわからないけど……。
 でも。よかったぁ。
 今のはむっつりさん卒業宣言よね?
 こんなふうに、掛居も岡本もかまってくれないなんて、わたしの予定じゃなかったもん。
 掛居が恭太にかまいっきりになるのは、わかってたしね。

「岡本ぉ。早く、行こ、行こ」
 わたしが岡本の腕をとると、鈴木さんたちも、ほっと息をついた。
 みんなに心配されてたって、わかってるの?
 ベンチ組のみんなにとっても、マネージャーさんは特別なんだよ、岡本。
 サッカー部員の、恭太の、お世話をしてくれるひと。
 みんな、あなたにもあこがれている。
「岡本さん、行きましょ」
 鈴木さんがうれしそうだ。
 わたしもうれしいよ。


「うっわぁ…すごい。岡本! 鈴木さん! 見て見て」
 目の前は、テレビのワイドショーで見たのなんかより、倍もまぶしい紅葉の谷。
「これが錦雲渓(きんうんけい)なのねぇ」