(あせらない、あせらない)
 ロビーをぬけるとき監督係のバーバと目があって。
 お財布がよく見えるように、なにげに手を上げて髪をかきあげた。
 いま気づきましたというふうに礼儀正しくおじぎをして。
 おみやげコーナーになら行くが良いとうなずいたバーバに、もう一度おじぎ。
 あとはダッシュ。
 おみやげ売り場の奥に非常灯があるのは見えている。
 たぶんその下のドアが掛居の見つけた《最短距離》だ。
 開くはず。
 ギギィーっと重たい金属のドアを押し開けると……
「うわぁ」
 あるある。
 ばかものどもの足跡が。
 きれいに敷かれた渡り石を無視するように、玉砂利を蹴散らしている。
「それにしちゃ…多いような気もする、けど」
 つぶやいたとたんに感じたきな臭い風。
「うわ。くさい。もう始めちゃってるのね」
 横手の、湖のほうから漂ってくる火薬の臭い。
 敷地の裏手には街灯もない。
 暗がりを植えこみにそって明るいほうに進もうとすると、薄いスリッパが玉砂利を踏んで痛いのなんのって。
「痛っ、痛っ」
 一歩ごとに悲鳴があがりそうな口を押えて、鼻をくんくん。
 火薬の臭いが濃くなるほうに進む。
 煙が見えてきた。
 敷地外に出て――筋向いの湖岸?
「あンの…ばかたれども!」
 走りだしたとたん、暗闇から伸びてきたなにかに腕をつかまれて。
「う…っ! …ンぐ、んぐン――っっっ!」
 悲鳴をあげた口までふさがれる。
 痴漢!
 変態!
 人さらいっ!