掛居は恭太の返事を待たないで教室へと入っていく。
 恭太もロッカーからゆらっと背中を離してあとに続いた。
 ひとりだけ取り残されそうになったわたしが、あわてて教室の前ドアに向かいかけたとき。
「…ったく太秦なんて」
 恭太がつぶやいた。
「…………っ」
 息を飲んで。
 肩ごしにチラッと視線を投げたわたしに見えたのは、うしろドアを入っていく恭太の、廊下に残った制服の黒いズボンの左脚だけ。
「…………」
 大丈夫。
 大丈夫だよ、恭太。
 わたしは、ちゃんと、自分の立場をわかってる。
 ふったオンナがうろうろしてちゃ、めざわりだよね。
「いいシーズンにしてね、恭太」
 恭太にロングホイッスルはまだ鳴らない。
 信じてる。