「…だな。変わらないよ、シューコは」
 (えええええ)
 掛居まで。
 いやだ。
 なに言ってるの。
 やめて、やめて。

 だんだん だんだん だん

「ひゃあああ」
 壁から響いてきた重たい音に、飛び退(すさ)る。
「おっとぉ」
 壁に寄りかかっていた掛居は、室内から叩かれる壁に苦笑しながら腕の時計を見た。
「稲垣ぃ、プリント――っ!」
 教室のなかで、だれかがわたしを呼んでいる。
「ご…めん。いま行くぅ」
 名指しで呼ばれたわたしが廊下から返事をして。
 地図を胸に抱いて、きっと真っ赤になっている顔を隠しながら前ドアに向かう。
「ほら掛居も! 早く!」
 わたしが逃げたがっていることは、声でわかるだろうに。
 掛居はゆっくり壁から背中を離して、わたしと恭太を、見た。
「要するに。楽しみはふつかめの自由行動だけってこと。恭、どこ行きたい?」
「興味ねえよ。…おれら、地区予選を勝ち進んだら行かねぇもん。知ってるじゃん」
「あれ? 今年は、ばっちりかぶるの、卓球部だけだろ?」
「なんだよ。どうせおれらじゃ準決勝なんて無理だと思ってんな? ふてぇやつ。おまえじゃなかったら蹴り倒してるわ」
 (ひっ)
 完全に心臓がつぶれた。
 呼吸もできない。