わたしたちの好きなひと

「待って、待って。おさらい。えっとぉ…右の岸からこっち…北ね。北は竹田川から由良川?」
「うん」
「…由良川になって日本海」
「そうそう」
「それで南は――高谷川から加古川に入って太平洋!」
「ばかか。いっしょくたにするな。瀬戸内海!」
 ひゃあ。
 怒られちゃった。
 どうでもよくない? 
 …なんて言ったらケンカかなぁ。
 それはまだこわいから。
「瀬戸内海。瀬戸内海」
 ちゃんと復唱しておきます。


「かわいくねえ傘」
「悪かったわねぇ」
 わたしの折りたたみの黒い傘は、ふたりで入るには小さすぎて。
 ぽつぽつ降る雨に、恭太の右の肩は、どんどんぬれていく。
 もうちょっと近づけば……。
 もちろん、考えるだけ。
 そんなことできやしないから。
 (ごめんね)
 わたしは心のなかで、あやまるしかない。

 水分かれ公園のなかで、高谷川は二手に分かれていた。
 日本海、瀬戸内海、どちらにも雨はここから70キロも旅をするんだね。
 言葉もなくふたりでたたずんで。
 公園からもう一度土手に出て、来た道を黙ってふたり、ひきかえす。
「シューコ、…なに考えてる?」
「別に……」